新処遇改善加算について事業者が持つべきもう一つの視点

現行の介護職員処遇改善加算は、介護職員すべてが算定対象であり、かつ支給対象となっているので、各サービス種別ごとに加算率が決められて、それに基づいて算定されている。

加算1の場合、最高は13.1%の訪問介護であり、最低は2.6%の介護療養型医療施設である。

算定・支給対象となる介護職員の配置規準数は、各サービスごとに規定されており、事業規模(利用者数に応じる規模という意味になる)が大きくなれば算定・支給対象職員の数は増えるし、加算の基礎となる基本サービス費は事業種別により異なるのだから、全サービスで均等に介護職員に手渡す給与額を増やすという意味では、事業種別ごとに加算率を異なる率で設定するのは合理性があるわけである。

よって、基本サービス費の単価が施設サービス費のそれより低く、利用者に対するサービス提供者がすべて資格を持つ介護職員である訪問介護の算定割合が高くて、それよりも基本サービス費が高く、かつ利用者に対するサービスが介護職員のほか看護職員等も行うことができ、両者の合算数で配置規準が決められている介護療養型医療施設の算定割合が低いのも整合性がある。

しかし消費増税が行われる10月から支給される予定になっている「新処遇改善加算」については、事業種別に応じて一定数の加算対象職員が存在することにはならないし、事業規模が大きくなればその数が比例して増えるということでもない。

なぜならこの加算の算定対象職員とは、「業界10年以上の経験のある介護福祉士」とされているため、100人定員の特養であっても、一方が事業年数30年で、一方が事業年数2年であれば、そこで加算算定対象者の数も違って当然であるといえるわけである。

この場合、「事業年数30年」の特養の方が、「事業年数2年」の特養よりも、算定対象となる経験10年の介護福祉士が多くなる傾向にはあるだろう。しかしそれも絶対的なものとは言えない。ベテランを数多く引き抜いている新設施設もあるし、古い施設より新しいユニット型の施設で働きたいとして転職するベテラン有資格者もいるのだから、個別事情で算定対象人数は大きく異なるわけである。

そのため新加算の算定については、現行の介護職員処遇改善加算と同様に、「サービス種別ごとに加算率を設定」するのではなく、「サービス種類ごとの加算率は、それぞれのサービス種類ごとの勤続10 年以上の介護福祉士の数に応じて設定。」とされている。

ここで問題となるのは、どこまで細かく「勤続10 年以上の介護福祉士の数に応じた割合設定」ができるのかという問題である。例えば対象となる介護福祉士が1人の場合は何パーセント・二人なら何パーセント~と細かく設定されるのだろうか。しかしそうであったとしたら請求コードは大幅に増えてしまうことになるし、非常に複雑な算定構造とならざるを得ない。

そうであれば加算対象者が「何人以上何人未満は何パーセント」という、ざっくりとした割合設定になるのだろうか?しかしこれでは事業者ごとの不公平感が助長されるだけになるような気がしてならない。

まあこれは今月にも示されるといわれている算定方式が明らかになってから考えればよい問題でもある。

業界10年の経験をどのように把握して、算定の際にそれについてどれほど証明責任があるのかも、今後考えなければならない問題だ。

新加算は、現行の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)までを取得している事業所を対象とし、職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていることに対して加算されるのだが、現行の加算と新加算の算定対象者は異なるので、それは現行加算に上乗せされる形で、新加算と従前加算が併算定できると考えるのが自然であるが、そうであれば月額8万円の改善額とは、従前加算の分も含めたものでしかないのかという疑問も生ずる。

どちらにしても今後の情報待ちである。

ただし、事業経営者の方々は今から考えなければならないことがある。それは今所属している事業所より、高い給与を支払ってくれる事業者を求めて、人材の流動化が加速される可能性が高くなるが、良い人材は給与の多寡だけで職場を選ばないということである。

そのため人材を増やすための最も効果的な配分方法を考えることは、人材となり得る有能な介護職員が働きたいと思える職場環境とセットで考える必要があるのだ。

果たしてそうした有能な職員とは、給料は高いけれど、利用者の福祉の向上がないがしろにされ、利用者の不満や悲しみの上に成り立っいる事業者の中で、働き続けたいと思うのだろうか。

利用者の尊厳が奪われ、日常汚い言葉遣いで利用者を知らず知らずのうちに傷つける職員が幅を利かせている職場の中で、有能な職員は、給料が高いという理由だけで働き続けたいと思うのだろうか。

介護福祉士養成校に入学する多くの学生の入学動機が、「人の役に立ちたい」という事実がある中で、利用者不在の待遇改善のみの視点で人は張り付くのだろうか。

勿論、今以上の給与改善・待遇改善は必要不可欠ではある。しかしそれと同時に、それに見合ったサービスの品質の向上の視点がないがしろにされる場所には、人材とは言えない人員だけが張り付く結果に終わってしまうだろう。

介護事業経営者の方々には是非、そうした視点も持っていただきたい。

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Source: masaの介護福祉情報裏板