認知症治療薬開発の悲惨な現状から思うこと

認知症の予防薬・治療薬の開発は、認知症の中で一番患者数が多いアルツハイマー型認知症をターゲットにして、その研究が進められている。

アルツハイマー型認知症は、脳内活動で生成されたアミロイドベータたんぱく質が、本来は正常に排出されるはずなのに、何らかのエラーによってその排出が妨げられ、脳内に異常貯留してしまうことが発症原因であるとする、「アミロイドベータ仮設」に基づいて、アミロイドベータが溜まらないように、それを分解するなど、脳内を正常に保つためのワクチンなどが研究されているわけだが、その研究成果はさっぱり挙がっていない。

そのため、「認知症の予防薬・治療薬が10年以内にできる」と言われてから10年経過したにも関わらず、その研究開発が進んでいないことを嘆いた、「永遠の10年」という記事を書いたのは、2012年8月のことである。
アルツハイマー型認知症が発症するメカニズムについては、この記事に詳しく書いているので参照願いたい。

その記事を書いてさらに6年9カ月が経過しようとしているにもかかわらず、認知症の予防薬も治療薬も実現の目途さえ立っていない。永遠の10年がずっと続いているわけである。

むしろこの間に認知症の予防と治療につながる新薬開発は、停滞というよりも絶望に近い状態に陥っている。

ネット配信記事『焦点:アルツハイマー病、新薬開発足踏み エーザイの「雪辱戦」』でもその悲惨な現状が伝えられているが、この記事を読んでもわかるように、いくらエーザイの社長が後期臨床試験に入る薬剤について、「成功確度は高いと考えている」と述べても、その言葉に現実感が伴わず、新薬開発の期待感は漂ってこない。むしろそのような新薬は実現不能な、『夢の薬』としか思えなくなりつつある。

本当に将来、認知症の予防・治療薬ができるかどうかはわからないが、少なくとも僕が生きている間に、その恩恵を受けることは難しいのではないかと思っている。だから僕は自分が将来認知症になることに備えて、今からできるいろいろなことをしようと思う。

まず家族に伝えておかねばならないことがある。自分が認知症になったら、家族だけでケアをしなければならないと思い込まずに、認知症のケアの専門家に任せなさいと言っておかねばならない。GHや特養に入所させたって全然かまわないと言っておかねばならない。

だからこそ認知症になった自分の面倒を見てくれる認知症介護の専門家を養成しておかねばならない。僕が育てている「あかい花たち」がそのころ何本になっているかはわからないが、その花たちにはしっかりと認知症の理解を促し、ケアの方法論を伝えていかねばならない。

認知症になったとしても、人としての尊厳が変わるわけではないという理解を促して、認知症になった人の尊厳や権利が守られるケアの方法論を伝えておかねばならない。

認知症は誰もがなり得るもので、それは老化に伴う自然現象なんだから、自分や家族がそうなったとしても、決して恥じることなく隠すことなく、共に生きる社会を創っていくように啓蒙していくことも必要だ。

最近の僕の講演テーマとしては、「看取り介護」とか、「サービスマナー」とか、「介護保険制度論」が多くなっているが、そもそも僕が北海道以外で最初に講演したテーマは、「認知症の人に対するケア」であり、僕が介護福祉士養成校で最初に受け持った授業も、「認知症の理解」である。認知症サポーターキャラバンでは、サポーター講座を開催できる「キャラバンメイト」を養成する講座の講師も務めていた。

つまり僕は「介護の視点から考える認知症の理解とケア」の専門家なのである。勿論、その理解の中には脳科学的な認知症発症のメカニズムの理解も含んでいる。

だから今後は認知症に関する講演も今までより増やしていこうとも思っている。手始めに地元で市民に向けた「認知症を理解し、認知症の人とともに生きるための講座」を開催しようと企画中である。

その講演では、認知症の人でも運転行為ができてしまう理由も説明しながら、運転行為ができても、正常な運転ができるわけではないことや、判断力が低下した状態での運転がいかに危険であるかということも伝えなければならない。自分自身で運転からの勇退年齢を決めておくことの重要性や、それができない人に対して家族が運転行為をやめさせないことには、幼い子供や若者が、判断力の低下した高齢者の運転によって、尊い命を奪われるという悲劇がなくならないことを伝えたい。

僕自身も今のうちから自動車の運転は70歳で勇退することを決めて、そのことも家族に向けて宣言し、それ以前に認知機能の低下に家族が気が付いたら、すぐに運転させないように強引な措置でも何でも取るように言っておかねばならないことは言うまでもない。

どちらにしても、医学的アプローチはその道の専門家に方策を委ねなければならないが、僕たちは対人援助の専門家として、認知症という症状を理解・啓蒙し、認知症という症状を持つ人の尊厳と暮らしを護るための様々な活動を続けていく必要がある。

認知症の人の暮らしを護るために、ケアの手が届くところはまだたくさんあることを信じる必要がある。

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Source: masaの介護福祉情報裏板