職員採用時の適性判断の重要性を再確認しよう

人材確保が一番の課題とされる介護業界であるが、人手が足りないからこそ、有能な人材を採用しないと、現場の仕事がきちんとまわっていかない。少ない人数で決められた仕事をこなすのであれば、そこに必要とされるのは仕事ができる人材なのだ。

数合わせで誰でもよいから応募してきた人間を採用するという考え方では、能力のある人材のモチベーションが低下し、バーンアウトしてしまう。そうした職場の現場環境はますます荒廃し、事業継続さえ困難になりかねない。

数合わせで採用した人間の中には、明らかに介護の職業に就くための適性を持たないものも少なくない。そのうちの幾人かは、介護の現場で重大な事件を引き起こしている。それによって事件を引き起こした当事者が犯罪者となるだけではなく、そのことは重大な損害賠償責任を雇用事業者に負わせ、社会的な信用を失わせる結果につながり、場合によっては事業廃止に追い込まれていく。

介護事業経営者は、改めてリスクマネージメントとしての従業員の適性判断について考える必要がある。

東京都品川区の介護付き有料老人ホーム「サニーライフ北品川」で、介護職員から暴行を受け、出血性ショック死亡した82歳の男性利用者の体には背中付近に暴行の痕があったほか、肋骨4カ所が折れて内臓にまで傷があり、それは3階建ての建物から転落したのと同じぐらいの衝撃がなければできない状態であるという。

被害者は暴行を受けた翌日に一時的に意識が戻っているが、その際に次女に対して、『若い男に蹴られた』と訴えており、犯人は被害者を強い力で蹴り殺したと思われる。

暴行の疑いで逮捕されているのは、暴行当日宿直をしていた元職員の根本智紀容疑者(28)である。元職員とされている理由は、根本容疑者が逮捕前の4/10に、すでにサニーライフ北品川を解雇されているためである。その理由は同容疑者に虐待行為があったからであるとされている。

現在犯行を否認している根本容疑者であるが、暴行当日の防犯カメラ映像には、宿直勤務だった同容疑者(28)が被害者の個室の入り口付近で複数回、部屋の外に出ようとする被害者の足を持って室内に引きずり込んでいた様子が撮影されている。このことについて同容疑者は、「腰が痛かった」などとその理由を説明しているそうであるが、そもそも腰痛があったとしても、利用者の足を引っ張って床の上を引きずるという行為そのものが許される行為ではない。

ところでこの容疑者のFacebookアカウントによると、サニーライフ北品川に勤める前の仕事は、「Club 〇〇〇のホスト」・「医療法人 〇〇会〇〇 病院の介護ヘルパー」・「〇〇興業」・「ケアアレジメント 〇〇〇〇〇介護」とあり、様々な職業を転々としていたことがわかる。
(※〇〇〇として伏せている部分は、Facebookアカウントには実名が記載されている。)

短期間に複数の職場を渡り歩く人が多いのも、人材不足で誰でも雇い入れてしまう介護業界の特徴である。その事情は様々で、職場側に問題がある場合があるとしても、これだけ複数の職場を転々としている場合には、社会人としての本人の適性の問題も疑う必要があると思う。特にこのケースでは介護2事業所を中途退社しているのだから、その理由を調べる必要もあると思う。

根本容疑者は、前に勤めていた介護施設では、仮病を使ったり、同僚の持ち物を盗んだりするなど、素行の悪さが問題視されていたことが明らかになっている。

今回事件を起こした施設には『キャリアアップしたい』として入社したという経緯があるが、前の職場の退職理由を、面接時の本人の言葉だけを鵜呑みにして信じるのは軽率で、できる限りの方法で真の退職理由を確認するべきである。根本容疑者にしても、採用時や就業後の適性判断はきちんと行われていたのだろうかという疑問符を付けざるを得ない。

今回の事件にしても、過去の様々な虐待事件にしても、その原因を単に介護という職業のストレスと分析するのは的外れだと思っている。それは「もともと対人援助に向いていない人によって行われる悪意がある行為」というふうに分析すべき問題であり、職員採用時の適性判断が十分に行われていないのではないかということを、もっと問題視して議論されなければならない。

介護業界全体がまずすべきこととは、人手不足を理由にして、募集に応募してきた人なら誰でもよいとして、人物の見極めも行わずにとりあえず雇うという体質を改善することである。

特に短期間で複数の職場を渡り歩いているような人は、面接時にどんなに好印象でも、採用は慎重にすべきである。前職が介護職である場合は、面接時に聴きだした退職理由を鵜呑みにせずに、必要に応じて調査を行う必要もあるのではないか。

そして試用期間中にもしっかり就業規則にしっかりと定めて、その期間に人物を見極める必要がある。

それらを含めて雇用後も管理職を中心にして、常に職員が利用者に不適切対応が生じていないのかを労務管理としてチェックするシステムが必要とされる。そのうえで不適切対応が疑われる職員は、介護実務から外して再教育を行ったうえで、適性がないと判断したら転職を促すことが求められてくるだろう。

それらはすべてリスクマネージメントとして必要とされることだ。

対人援助は本来、誰にでもできる職業ではない。きちんと人を選んで教育する必要があるのだ。そのために一時的に職員数の不足が生じたならば、ベッドの一部休止や利用者定員の見直しなども行うべきである。

単純に給料を上げ、介護職員の数だけ増やしたとしても、虐待事件はなくならないだろう。

それも大事だが、職場内で教育と訓練を繰り返して、職員に介護のプロとしての自覚を促し、人権意識を育み、いつもそれを忘れさせないことでしか、こうした事件を根絶する手立てはないのではないだろうか。

特にリーダーとなる職員に対する人権教育を徹底し、リーダーが部下に対して日常的に利用者へのサービスマナーの徹底を図る指導が行われるようにしなければならない。

だからこそサービスマナー教育は重要になるのである。その教育がきちんとされているかどうかが、介護事業経営の肝になってきていると言ってよいだろう。

間違ってはならないことは、ひどい虐待報道が出るたびに、介護事業者であれば多かれ少なかれ、虐待が行われていると思い込むことだ。そんなことはなく介護業界のマジョリティとは、虐待と無縁の介護事業者である。

感覚麻痺に陥らずに、虐待とは無縁のサービスを提供している数多くの介護事業者が存在するのだから、この業界から虐待事件を根絶することは不可能ではないことを信じて、品質の高いサービスを提供している事業者のノウハウも取り入れながら、サービスマナー教育を徹底した教育システムを完成させることが事業者にとって最も求められることだ。

それを行わない事業者は、いつ自らの内部に本件のような心の闇を持った職員を抱え、その職員によってかけがえのない命が脅かされ、それによって事業の危機に陥る危険性を持っていることに気が付かねばならない。

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Source: masaの介護福祉情報裏板