風が吹いている。

自分は人と比べて優れた存在ではない。むしろ劣ることが多い存在だ。人より誇ることのできる何ものも持っていない。

物心つくころから、そんな風に思い続けてきた。だからこそ人前で、背伸びして実際の自分より良い自分を人に見せようとしていたこともある。その傾向は年を取った今もなくなっていない。

自分のありのままをさらけ出すのは怖いことだ。恥ずかしいことだと思う自分も確かに存在している。若いころはそんな自分を隠して、違う自分を人前で演じることにエネルギーを使うことが多かった。そんなことに疲れて、人の目を気にしない場面が増えてきたように思う。それは自分が少しだけ図々しくなったからに過ぎず、人生に達観したとか、正直になったということではない。人前で自分を飾ることが面倒くさくなっただけだ。

同時に人前で自分を飾ることを少しずつ恥ずかしく思うようになってきた。飾っても飾り切れない人間の本質というものは、誰かの目には見えているのだろうと思う。

いつまでたっても人の目は気になる。人の声が気にかかる。・・・しかしそれはそれでよいのではないかと思うようになった。人は人の中で生きているのだから、周りの人を無視できる方が異常だ。周りのことが気になるのが当たり前だ。それが人間という存在だろう。

僕の人生はもう半分以上過ぎている。若いころと異なり、明日不慮の出来事があってももったいない人生ではないと思う。

世に名を残そうとも思わない。消えてなくなった時に、誰かの記憶に残る必要もない。できれば汚名だけは残したくないと思うだけだ。自分の「老い」に気づかずに、世に迷惑をかけるようなことがないように祈るのみだ。

人は老いる。それは自然の摂理であり、恥ずべきことではないが、だからといって誇ることでもない。老いを自覚し静かに隠棲できることを祈るのみである。

自分は、自分より人生をずっと長く生きてきた高齢者の方々の、最もプライベートな部分に関わることで、「生活の糧」を得てきた。これはある意味異様なことである。異常なことといってもよいかもしれない。人生の先輩に向かって、自分は恥ずかしくない姿で相対してきたのだろうか。

生活支援と称してずいぶん失礼なことをしてきたような気もする。法律に触れるような悪行をしたわけではないが、若気の至りという言葉だけでは済まない業を負うような行為がなかったとは言えない。生意気な行為を繰り返して今の自分があるのかもしれない。そんな繰り言を言っても始まらないし、聞く側の人は迷惑なだけだろう。だから「ごめんなさい。」は自分の心の中だけでつぶやいていればよい。別な誰かには「ありがとう。」と心から声をかけるのみだ。

風はそこにただ吹いているだけなのに、ある時は身を切るように冷たく、ある時は何より心地よく爽やかだ。風は風という存在でしかないのに、自分の身の上の中でその存在感が変わってくる。それを感ずる人のありようで顔を変えているかのようだ。喜び勇むのも、思い悩むのも、地上のほかの存在のせいではなく、身の上のせいでしかない。哀しい自分は誰より哀しいが、うれしさで満ち足りた自分がどこかにあったことや、これからも確かにあることを忘れてはならない。

誰のせいでもなく、誰の責任でもなく、僕は僕として今ここにある。

これから僕はどこに行くのかは、僕も知らない。僕の行こうとする道だけがそこに伸びているわけではない。行きつく先も想像できない。そこにたどり着くのが明日になるのか、はるか遠い日になるのかもわからない。だから人生は面白いと思っていればよい。

不安や心配があって当然だ。それがすべてなくなるのは人としての歩みをやめるときだろう。

人生が面白くないと思うのも自由だが、どうせ自分で自由に決めることができることなら、面白くないことを選ぶ必要もない。面白いと思い込んでおればよい。

ずいぶん年を取ったと思いながら自分が歩んだ道を振り返るのもよいのだろうが、振り返った道に自分の足跡があるわけではない。ただそこには見えない風が吹いているだけだ。

だから今はまだ人生を語らずの心境である。

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Source: masaの介護福祉情報裏板