死因変化が示唆していること

僕が新卒で特養に入職した昭和58年当時、日本人の死因のトップは脳血管疾患(脳出血・脳梗塞など)で、その次に心疾患、がんという順位で続いていたと記憶している。

しかし昭和60年代に入ると、がんが死因のトップになり、次に心疾患が続き、脳血管疾患は3番目になっていった。脳血管疾患による死亡者が減った背景にはCT検査などの確定診断の充実や、脳外科手術の手技の進化といった背景があると言われていた。

その状況が長く続いていたが、先に厚労省が公表した人口動態統計によると、2018年の日本人の死因は1位がん、2位心疾患、3位老衰となり、脳血管疾患が4位に下がっている。

この死因変化からは、二つの意味を読み取ることができるのではないだろうか。

まず最初にそれが意味することとは、脳血管疾患では即、死ぬことができなくなったということである。

医療技術の進化で脳血管疾患を発症したからと言ってそのまま死に直結しない人が多くなるからと言って、この疾患そのものが劇的に減少しているわけではない。しかもこの疾患の特徴は、一旦発症した場合症状が治まったとしても、麻痺という後遺症が残る可能性が高いということである。そして脳血管疾患になった人が、一般の人と比較して特段に寿命が短くなるというデータはない。むしろ病気になったことをきっかけにして、酒やたばこを控え、血圧管理などの医療ケアを定期的に受ける人が多くなることで、寿命は延びている可能性もある。

どちらにしても60代で脳血管疾患を発症した人は、その後手足等の麻痺を抱えたまま長い期間生きる可能性が高いということになる。その期間は25年~30年というスパンであると考えられる。そうした方々が、手足の麻痺という不自由を抱えて、どう暮らしていくのかということに、我々は深く関わる仕事をしている。今後そういう人がさらに増えるのである。

病気が発症した当初は自分の運命を呪い、絶望と慟哭の中にいる人も多いだろう。それがやがてあきらめの気持ちに変わり、さらに病気を受け入れ、新しい生活に向けて頑張ろうとする意欲に結び付くように、それぞれの過程の中で、医療看護職として、相談援助職として、介護職として、栄養士としてなど様々な立場で、どのように関わっていくかという姿勢が問われてくるだろう。

時には専門職として関わる姿勢より、そっと肩に手を置いて優しさを伝えるような、人としての姿勢が問われてくるかもしれない。そこで何ができるかを考え続けたい。

さて死因変化のもう一つの意味についても考えてほしい。老衰死が増えているということは、高齢死者数が増えているという意味だ。今後の地域社会では、医療機関のみならず、介護施設や在宅など様々な場所で、老衰で亡くなる高齢者が増えてくるのだ。

老衰とは自然死なのである。そうであれば自然死を阻害しないための備えが必要になる。

老衰の最終段階では口から食物を食べられなくなる。この時に胃婁を増設して経管栄養を行なえば、死までの期間は引き延ばすことができる。それも月単位ではなく年単位での引き延ばしが可能になる。しかしそれは老衰という自然死を阻害するだけの行為になるかもしれないということだ。

自然死を阻害された人は、その後死を迎えるまでの間、誰とも意思疎通ができないまま、痰の吸引などの行為のたびにもがき苦しんで生きるかもしれない。実際にもがき苦しむためだけに活かされている人が、現在この国に何万人いることか・・・。それが長寿世界一ニッポンの一面でもある。

そうしないために、すべての人々が意思のあるうちに、「リビングウイル」の宣言ができる地域社会を創ることが理想だ。地域包括ケアシステムにおける医療・介護連携、多職種連携の目的の一つに、「地域住民に対するリビングウイルの支援」があるべきだ。
(※リビングウイルとは、「生前意思」又は「いのちの遺言状」といわれており、「自分の命が不治かつ人生の終末期であれば、延命措置を施さないでほしい」と宣言し、記しておくことである。延命治療を控えてもらい、苦痛を取り除く緩和治療・緩和ケアに重点を置いた支援に最善を尽くしてもらうための宣言でもある。

昨年の介護報酬改定で、居宅介護支援費に新設された、「ターミナルケアマネジメント加算」は、末期のがんの人に対する支援行為にしか算定できないが、今後の地域社会では老衰による在宅死が増えるのであるから、そういう人に対するリビングウイルの支援から終末期支援までがつながっていくために、次期報酬改定では、その加算の対象はすべての終末期支援対象者としてほしいと僕は訴え続けている。

是非その実現も図ってほしいものだ。

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Source: masaの介護福祉情報裏板