訪問介護員の絶滅を防ぐ手立てはあるのか?

居宅サービスの支え手として、「訪問介護員(以下、ヘルパーと略す)」が重要であることは間違いない。

7/26の社保審・介護保険部会でも厚労省は、訪問介護員の確保の重要性に触れ、「初任者研修の受講料の助成を広く活用すること」などを対策として挙げている。

が・・・この考え方はあまりにもずれてないか?ヘルパーの不足は、初任者研修の問題なのか?

厚労省の調べによると、2015年度の時点でヘルパーは50代以上が全体の61.6%にのぼっている。60代以上が36.4%を占め、30代以下は15.5%しかいない。このように担い手の高齢化はかなり進んでおり、このままだと状況は悪化の一途を辿ってしまうという現状認識もされている。

そうであれば、なぜ訪問介護員の年齢層が高いかという理由に触れて対策を考えなければ、どのような対策も的を射たものにならない。こうした点を介護業界側の委員もどうしてきちんと指摘しないんだろう?ただ給付費を上げろっていうだけじゃ国は動かんだろうに。

先日の介護保険部会の議論を見る限り、ヘルパー不足に対する具体的な解決策には結びつかないと思わずにはいられない。

そもそも訪問介護費が安いから、正職員をそう多くは雇えず、登録ヘルパーが中心になるから、若い人が将来性がないとして働いてくれないというだけの問題ではないという認識が必要だ。ヘルパーの年齢層が高いという理由は、若い人がヘルパーの職を選びづらいことと同時に、年をとってもヘルパー業務ならできるという2つの理由があることを忘れてはならない。

訪問介護は身体介護だけではなく、「生活援助」という家事の支援が含まれているが、訪問介護サービスのうち要介護1で6割以上、要介護2で5割以上がこの生活援助サービスで占められている。つまり軽介護者については、身体介護のスキル以上に家事支援のスキルが求められてくるのである。よって家事能力の低い若者が訪問介護の仕事を選択しない傾向がある。男性ヘルパーが少ないのも、この理由によるところが大きい。

また訪問介護は利用者の自宅等の居所で、1対1の関係で支援を行う業務であるから、若い女性が男性高齢者にセクハラを受けるというケースも少なくなく、それを避ける傾向にあるために若い女性が少ないということも言える。

現在訪問介護サービスを利用する男性利用者は、現役世代にセクハラが大きな問題にならなかった時代を長く生きており、「女性蔑視」の考え方を持っている人も多く、本人にそのつもりがなくとも、ヘルパーを召使いのように扱ったりする人もいる。その中には日常的にセクハラと言える言動をとる人もいるが、人生経験を積んだ女性であれば、そうした言動をうまくかわしてうまく対応できる人が多くなる。(言葉は悪いが、「適当にあしらうことができる」と表現しても良いかもしれない)

若い女性にはそれはなかなか難しいと言えるかもしれない。

しかしこうした密室での1対1の対応がうまくできる人であれば、他の介護サービスに比べて、訪問介護の方が年齢を重ねても長くできる仕事でもある。

介護施設の業務に比べると、同じ場所で同時刻に複数の重介護者に対応する必要はないし、夜勤など体力が必要となる業務負担も少ない。自分の体力や生活スタイルに応じて、働くことができる時間だけの登録業務とすることもできる。

現に僕が総合施設長を務めていた社福では、定年退職した介護職員が登録ヘルパーなら続けられるとして働き続けているだけではなく、清掃員として特養に勤務したことがきっかけで介護業務に興味を持った人が、清掃員の業務を行いながら資格を取って、定年退職後にヘルパーに転身した例もある。

このようにヘルパー業には、高齢になっても働くことができるという側面もあるのだ。初任者研修が受けられないからヘルパーになれない人などほとんど存在しないと言ってよく、仮にヘルパー不足が初任者研修の問題だとしたら、そんな研修の受講義務などなくしてしまえばよいだけの話である。

なぜなら施設介護や通所サービスの介護職員に何の資格もいらないし、小規模多機能居宅介護の訪問サービスは資格がなくともできる。特に小多機の訪問サービスって、訪問介護とほとんど同じことをしているではないか。それでなにも問題がないとされているのだから、初任者研修がないとヘルパー業務が立ち行かないとか、スキルが担保できないというのは整合性のない論理としかいいようがない。

ヘルパーとしての仕事ができるかどうかのスキルは、雇用事業者がその責任を負えばよい。それは現状の介護施設等で普通に行っていることだ。

訪問介護の主役であるヘルパーがいなくならないように、訪問介護費を上げるという論理も危険性がいっぱいである。その財源確保のために他の介護サービスを削ったとしたら、それは他のサービスの介護職員がヘルパーに流れて、介護施設等の介護職員不足がますます深刻化する結果にしかならないからだ。

むしろヘルパーの高齢化を問題視するのではなく、ヘルパーは高齢になっても就業可能な業務であることを活用すべきである。

介護業界全体の就業者数を増やすことで、介護施設等で働いていた人が、高齢になってその業務が負担になった以後、訪問介護員として再度活躍できるという循環をつくることのほうが、初任者研修をどうのこうのすることより、より現実的な対応と言えるのではないだろうか。

そもそも日本の現状は介護人材不足ではない。生産年齢人口が減り続ける中で全産業で人手が足りないという状況なのだから、その中で介護業界に張り付く人材を増やさなければ、同じ財布の中身をシャッフルして、今現在お札が財布のどこにあるのかという対応にしかならない。

・・・しかし世の少子高齢化と、生産年齢人口の減少の先を考えながら、介護業界だけに国費が莫大にかけられない状況を考えると、介護保険は制度あってサービスなしという状況にまっしぐらに向かう可能性が高いのではないかと思ってしまう。

そうしないための唯一の方策は、介護サービス提供の責務を市町村に義務付ける以外になくなるかもしれない。特に訪問介護については、市町村事業化する以外に根本的な対策はないと言えるのかもしれない・・・。

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Source: masaの介護福祉情報裏板