経験がある介護福祉士でもマナーがなければ加算配分をしないという判断はあり

10月以降に支給される、「介護職員等特定処遇改善加算」について、「言葉遣いという当たり前のことが出来ていない職員に対しても、特定処遇改善加算(加算1)が支払われることに納得がいきません。」という意見がある。

しかしそうした考えは誤解に基づくものだ。確かにこの加算は、経験・技能のある職員を中心に加算配分するルールになっており、スキルは二の次とされているが、配分をどうするかという裁量権は事業者が持つものであり、aグループに属する職員であっても、昇給に値する能力がないと事業者が見なして、昇給させないことは可能だからだ。

むしろ事業者の裁量権を最大限活かせば、従前以上に能力評価にこの加算は使える。職場内の職員のスキルアップの動機づけを高めることは、近い将来の事業経営の安定化につながるものと考えられ、積極的に加算をスキル評価に結び付けるように配分方法を工夫すべきだ。

例えばaグループの「経験・技能のある介護職員」の平均給与改善額は、bグループの、「その他の介護職員」の2倍以上としなければならないが、だからといってaグループ全員の給与を改善する必要はなく、aグループ内で個人差が生じてもよいものである。

一連の算定要件は、あくまでグループごとの平均給与改善額でみるだけで、その要件さえクリアできておれば、極端な話aグループの中で、月額8万円給与改善される人がいる一方で、給与改善額がゼロ円という人がいても問題ないのである。ゼロ円の人が、正しくグループ分けされ、その中で平均給与計算の対象になってさえいればよいだけの話だ。逆に言えば、その部分を間違えて区分してしまった場合は、加算返還となってしまうことには注意が必要だ。

ちょっとだけ配分ルールを振り返ってみると、「介護職員等特定処遇改善加算に関する基本的考え方並びに 事務処理手順及び様式例の提示について 」では、① 配分対象と配分方法 一 賃金改善の対象となるグループ として次のように定めている。

a 経験・技能のある介護職員
介護福祉士であって、経験・技能を有する介護職員と認められる者をいう。 具体的には、介護福祉士の資格を有するとともに、所属する法人等における勤続年数 10 年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえ、各事業所の裁量で設定することとする。

b 他の介護職員 経験・技能のある介護職員を除く介護職員をいう。

c その他の職種 介護職員以外の職員をいう。

↑このように 「事業所の裁量」で認めているのは、aグループに引き上げるべき裁量だけで、bcグループに裁量要件は書かれていない。そうなると他法人の経験年数を含めて10年以上の経験がある介護福祉士をaグループとしたり、実際には他法人の経験も含めても10年の経験がないとしても技能があるとしてaグループとすることは認められるものの、実際に当該事業所で10年以上勤務している介護福祉士をbグループとすることまでは認めていないわけだ。

つまり「あなたはこの事業所で10年以上働いて、介護福祉士の資格もあるけれど、スキルが足りないからbグループとみなします」という扱いはできないと考えられるのだ。よってこうした職員はaグループとして、aグループの平均給与計算式に入れなければならない。

またaグループに入れられるのは、あくまで介護福祉士の有資格者であって、どんなに技能と経験がある介護職員でも、介護福祉士の資格がないとここには該当させられない。

そうしたルールを踏まえたうえで、わかりやすいように100名定員の特養のケースで、aグループにしか加算分を配分しないとして考えてみよう。

以前にも加算額シミュレーションを示したが、例えば100人定員特養で居住費と食費を除く年間収入が4億2千万円と仮定した場合、月額加算額は945.000円である。つまりこの特養では特定処遇改善加算分の配分として、10月からこの分の昇給額が945.000円を上回ればよいわけである。それは最低11人には8万円の給与アップが可能であるという数字でもある。

この時aグループに入る、「経験と技能のある介護職員」が17人いたとする。そのうち一人は介護リーダーとして現場で適切に職員の指導を行い、言葉遣いのルールも守っているとしよう。しかし残りの16人のうち13人はその指導に従っているが、3名の職員については、「言葉遣いという当たり前のことが出来ていない介護福祉士」であったとする。

この場合、指導者であるリーダー職員の昇給額を8万円とし算定要件の一つをクリアする。そして言葉使いが丁寧にできている13名の職員に一人66.600円の昇給を行えば、全体の昇給金額は、945.800円となり加算算定要件をクリアするので、「言葉遣いのルールを守ることができていない」3人については、昇給ゼロ円としてもよいということになるのだ。

勿論、このように極端な格差をつけた場合、aグループで昇給ゼロだった職員は退職する可能性が高くなるが、そうした職員が退職することは将来的にはその職場にとってマイナスにはならないと思う。むしろ今回の特定処遇加算については、こうした大改革に向けて大いに利用した方がよいのではないかとさえ思っている。

現行の労働法規上のルールで言えば、利用者に向けた言葉遣いをはじめとしたサービスマナーが徹底されていないという理由だけで、退職勧告を行うことは難しいだろう。しかし特定処遇改善加算の配分については、信賞必罰の原則を適用して、上記のように差をつけることは合理的な理由があるとされ、「正当」とされるだろう。そのことで自主的に「人罪」が職場から離脱してくれることは、職場にとって損失にならないと思う。

要は経営者の、「覚悟」の問題なのである。

本当に団塊の世代から選ばれるような高品質サービスを創り上げて、これからの厳しい競争の時代に生き残っていこうとするなら、一時的に利用者受け入れを制限することがあったとしても、職員を良い血に入れ替えて、ホスピタリティ精神がある職員を確保していく方が正解だと思う。

介護事業経営者の中には、加算配分による昇給についてはスキルは関係なく、各グループに分けた職員には均等に配分するようにして、サービスマナーのかけらもない職員に対しも加算配分による昇給を他の職員と同じように行い、とりあえず介護職員の数を減らさないという考えの方もいるだろう。

そうではなく、スキルの高い職員がそうでない職員より報われる形で、きちんとした「人材評価」につながる加算配分にしようと頭を悩ませている経営者もいる。

その差が事業経営上の勝敗として現れてくるのには、これから先10年もの歳月はかからないだろう。おそらくこの5年以内に差がついてくるのではないだろうか。

勿論その差は、人材確保と利用者確保という面から表面化してくるだろう。

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Source: masaの介護福祉情報裏板