国の隠された思惑とはケアマネの政策的削減(後編)

国の隠された思惑とはケアマネの政策的削減(前編)より続く
今年度から介護支援専門員の受験要件の見直しが適用され、法定資格のない介護職員だけの実務経験だけでは受験要件に該当しないという、受験資格の厳格化が実施されたことは周知のとおりである。

これも国の政策誘導の一つであり、介護保険制度が誕生から昨年度までのような、「介護支援専門員の大量生産」の必要性は薄くなったと国は感が他のだろう。そうであれば同時に、介護支援専門員より足りない介護職員が、介護支援専門員の資格を取って介護実務をしなくなる状況をできるだけなくそうと考えたという結論にたどり着く。

むしろ国としては介護支援専門員の受験者については、もっと職種を絞って、相談援助の専門家に絞りたいというのが本音だ。しかし既得権益というものを無視できずに、すべての介護職をそこから除外することはできなかった。そのため法定資格という言葉を用いることで、体の良い形で一部の介護職実務経験者追い出しルールを作ったわけである。それが証拠に相談援助職については救済措置により法定資格がなくても受験資格から外れないようにしているわけである。

ただしこの受験要件の厳格化によって、大幅に受験者数が減ったということにはならない。

このことについては、11/6に書いた「介護支援専門員実務研修受講試験の受験者の大幅減について」という記事の中で僕は、受験者数の減少は、受験要件が法定資格を有する者などに厳格化されたことによるものではなく、処遇改善加算の支給対象に介護支援専門員が含まれていないことの影響もあるということを指摘しているところである。

受験者数が6割減ったという事実があったとしても、法定資格者以外の受験者が昨年までの受験者の6割を占めていたなんて言う事実はないからだ。

むしろ年収という生活に直結するものが、この受験者減に影響しているのだ。

介護職員処遇改善交付金以来、現行の介護職員処遇改善加算まで続く、介護職員の給与改善策の効果が徐々に表れてきた段階で、すでに一部の地域では夜勤手当を含めると、介護職員の方が介護支援専門員より年収が高くなり、しかも介護職員の待遇改善はさらに続けられる政策がとられる見込みが確実になったことで、将来を見据えて介護職からケアマネへの転身を目指さない人は確実に増えているというわけである。

そこにはお金のために介護支援専門員を目指す人を減らして、相談援助を職業にしたいという動機づけを持つ人だけが介護支援専門員を目指す方向にもっていくという思惑がある。それは介護支援専門員の資格を得た後に、その業務に興味を持てずに辞めてしまったり、業務スキルがない状態で質の低い業務しかできない状態に陥る人を、あらかじめスクリーニングしようという意図もある。

それも国の政策誘導の結果といえるのだ。介護支援専門員の数の確保より、介護職員の数の確保を優先するために、介護職から介護支援専門員へ転身して、介護職員の数が減少することを是としない方針転換が水面下で行われているのである。それでも介護支援専門員は将来的には充足するという意味もある。

介護職員をまず減らさないことを優先し、介護支援専門員が一時的に減った分については、政策的に介護支援専門員の必須業務を減らして対応しようというのである。

勿論、地域によっては今現在も介護支援専門員のなり手が少なく、居宅サービス計画書の作成担当者が見つからない住民がいて、そうした地域では、居宅介護支援事業所の介護支援専門員がケアプラン作成数の限界を超えて受けている事例があることも国はわかっている。それでもなおかつ今後はそうした状況が解消でき、将来的には今の介護支援専門員の数が維持されれば、介護支援専門員の数余りが生ずるとみているのだ。

それはなぜだろうか。例えば介護支援専門員のなり手が減り続けた先に、今現役の介護支援専門員がリタイヤすることを考えたとき、介護支援専門員の数が足りずに、サービス利用ができない国民が生ずるのではないかと国は考えないのだろうか。

それにはカラクリが隠されているのだ。いやそれは今後に向けた国の強い意図が隠されているといってよいだろう。

その意図とは、政策的に必要な居宅サービス計画数を減少していく方向に誘導していくという意味である。計画すべき居宅サービス計画の数が減るのであれば、それに対応する計画担当者としての介護支援専門員の数は少なくて済むということだ。

そのための次の一手は、居宅介護支援費の自己負担導入である。このことについて僕は「御用聞きケアマネを増やす悪政」として反対意見をこのブログ記事の中で再三唱えてきたが、いよいよ2021年の報酬改定時には、自己負担が導入される可能性が高くなっている。

それが定率負担なのか定額負担なのかは、今後の議論の流れで決まってくるが、どうやら自己負担導入の流れは止められないようである。するとここで起こることは、自己負担しなくてよいセルフプランの増加である。

制度が複雑になった状況で、セルフプランなんてそう増えるものではないと考えている人が多いが、ここでいうセルフプランとは、純粋な意味で利用者自身が作成するプランではなく、法令ルールの隙間を縫って、「サービス事業者が、自社サービスの囲い込みを目的に、無料でセルフプランを作成支援する」ということである。(参照:居宅介護支援費への自己負担導入は、介護支援専門員の職が奪われるという意味でもあるんだぜ

これによって居宅介護支援事業所の顧客は減ることになり、介護支援専門員の仕事も減るということになる。

さらに2021年の報酬改定時には、要介護1と2の人の訪問介護の生活援助が地域支援事業に移行される可能性が高くなった。もしかしたら福祉用具貸与も同様の取り扱いとなるかもしれない。

これによって相当数の居宅サービス計画が必要とされなくなることが予測され、この部分のケアマネの仕事も奪われていくわである。

しかも2021年の改定は序章にしか過ぎない。国の描くグランドデザインの中には、介護保険給付対象を、重・中度の要介護者に絞るというものがある。

つまり将来的には介護保険給付対象者は要介護3以上にして、それ以外の人は、原則として地域支援事業の対象とするか、もしくは自己負担で保険外サービスを利用してもらうという考え方である。

先般、「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて 」が発出され、保険外サービスの提供の弾力化が図られた意味は、利用者に保険外サービスに馴染んでもらおうという意図が隠されているのである。

そして徐々に、軽度者に対する保険給付できるサービス種類を減らしていくという意図があり、その結果、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の仕事が大幅に減るために、その数は今より6割減っても対応できるという意味になる。

それはとりもなおさず個々の質の差を均等化するきっかけになるかもしれないということまで国は見据えているわけだ。

その考え方や政策誘導の方向性が正しいとは言わないが、そうした方向に進んでいるという事実に目をつぶってはならないのである。

はっきり言ってこうした状況下で、その背景分析をしてものを言わない職能団体(例えば日本介護支援専門員協会など)は一体何をしているんだという問題でもある。

どちらにしてもそのようなレールの上を走っていることを、介護支援専門員をはじめとした関係者は理解する必要があるだろう。

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Source: masaの介護福祉情報裏板