教育の手が及ばないスキルの持ち主も存在するという事実

鳥取市の小規模多機能ホーム「虹の家すえひろ」で働く男性職員が、おむつ交換をする際、90歳代と80歳代の女性利用者に対して、「臭い」と発言するなどの不適切な対応があったことが昨日報道されている。

不適切行為を行っていた職員は、利用者の前で消臭スプレーを噴射したり、利用者の額や顔を指先で突いたもしていたそうだ。

このことについて運営会社「メディコープとっとり」の担当者は、「職員教育が不十分でした。利用者様の信頼をうらぎるようなことになり、誠に申し訳ございません。当該職員もふくめ全職員への指導を徹底してまいります」とコメントしている。

運営会社の公式サイトには謝罪文が掲載されており、「この度の事態を招いた要因は、わたしたちの虐待や不適切な行為に対する認識の弱さにあり、管理者として職員教育、防止対策が十分に行えてなかったことにあると強く反省して おります。」との一文がある。

運営会社の猛省を促すべきだし、職員教育の在り方も見直すべきなのだろう。しかしそれ以前にもっと大きな問題があるのではないか。

介護という仕事が、排泄ケアなど汚いものを処理する行為も含んでいることは常識中の常識である。その際に、ケアの対象となる利用者に対して、「汚い、臭い」という言葉を発することは、不適切というよりも罵声であり、虐待そのものである。しかしそんなことは人から言われなくてもわかる程度の問題である。

そんなことをしてはいけませんよ、という教育が必要だとしたら、それは幼稚園児に対する教育である。

小規模多機能居宅介護の介護職という職業を選んで応募し、採用試験をクリアした職員に対し、いちいちそんな教育から始めないとならないとしたら、その職員とはどこまで成長するというのだろう。本当に対人援助に必要なスキルを獲得することができるのだろうか?僕にはそう思えない。

介護サービス事業は、人員不足の中で、向き・不向きのチェックが不十分になりがちで、募集に応じてきた人を機械的に採用してしまう傾向が強まっている。しかし応募者の中には、教育の手が及ばないスキルの持ち主も存在するということを忘れてはならない。介護という職業に向かない人もいるのだ。そういう人はきちんとスクリーニングしなければならない。

そうしなければ虐待・不適切対応が、「そこかしこに存在する」という状態になってしまう。そして不向きな人を採用すると、結果的には他の職員に負担がかかるだけではなく、本件のような問題を引き起こし、それは経営リスクに直結する問題ともなるわけである。

勿論、採用面接だけで向き・不向きや、常識を超えるほどの資質の無さを見破るのは難しいかもしれない。そうであるからこそ、試用期間のなかで適格性・協調性を確認することが重要となる。

試用期間は労働基準法等の定めがなく、法人の任意的事項であるから、その期間を設けていない経営母体もあるが、その期間は正職員としての適格性を判断し、教育機関であるとも考えられているので、規定のない法人はその規定を設けるべきである。

試用期間と言えども、労働契約自体はすでに成立しているために、法人都合で勝手に試用期間中の職員を解雇できるわけではないが、過去の判例では試用期間中については、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められており、合理的理由により使用者が解約権を行使できるものとして解釈されている。

例えば、入社後の勤務態度が極めて悪く、協調性もなく、周囲の業務にも悪い影響を与える場合も、試用期間中の解雇事由として認められている。

本件は9月に匿名で鳥取市に通報があり明らかになったものである。おそらくそれは職員の内部通報だろう。「臭い」と罵声を浴びせている声が、他の職員に聴こえないわけがないからである。そうした罵声に憤った職員が市に通報したのだとすれば、運営会社はそのことも反省すべきだ。

管理者等の責任ある立場の者が、その罵声に気づかなかったのは何故か、匿名通報が職員以外であったとしても、ヘルプの声を届ける先が運営会社を通り越して鳥取市となった理由は何かを検証して、そのことも反省・改善材料にしなければならない。教育だけの問題ではないのだ。

職業として顧客に接する際にはマナーが必要である。マナーとは行儀作法のことをいい、それは人間が生きていくうえで好ましい言動の作法なのである。マナーは人に不快感を与えないことなのであり、対人援助には他の職業以上にそうした意識が求められるのだ。そのような常識を持たない人間を闇雲に採用してはならないし、適性があって採用した職員に対しては、マナー教育が必須なのである。

最近サービスマナー教育のための講演依頼も増えているが、そそれは、うした意識を職員に持ってもらおうという介護経営者や管理職が増えているということだ。それは実に良いことだろうと思うが、そのためには経営者や管理職自身が、介護サービスを利用する顧客に対するマナーを重んじて接し、そうした接し方ができない職員を教育したうえで、その教育についてこれない人員を整理していくという覚悟も求められていくことも忘れてはならない。

そしてそれができない事業者は、情報末端が発達し続ける社会で、いつか不適切対応に目をつぶっていた「つけ」を払わされる結果になることも覚悟しなければならない。

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Source: masaの介護福祉情報裏板