医療機関から介護福祉士がいなくならないか?

来年10月から支給予定の新処遇改善加算について、昨日(17日)麻生太郎財務相と根本匠厚生労働相が折衝し合意したそうである。

それによると、加算対象となる「経験・技能のある介護職員」とは、現場を牽引する「リーダー級の介護職員」を主な対象とする方針としており、1つの法人に10年以上勤めている人だけでなく、「業界10年」の介護福祉士なども「リーダー級の介護職員」と認められれば同様の恩恵を受けられる仕組みにすることが正式に決められた。

また月8万円の賃上げとなる人、あるいは賃上げ後に年収が440万円(全産業の平均賃金)を超える人が事業所内に1人はいなければいけないとのルールを組み込むことも正式に決定した。よって440万円という年収については、従前からそれを超えている人が何人いようとも関係なく、賃上げによって440万円を超える人が一人以上いなくてはならないということも正式に決定したことになる。

これらの細部については19日の介護給付費分科会で明らかになる。

新処遇加算については、「新処遇改善加算(19年10月)によって笑う人、泣く人」・「事業者にとっては悩ましい新処遇改善加算」などで解説してきたが、これらの記事の中の解釈が間違っていないかどうかについても、明日の審議会後にあらかた明らかになるだろう。そういう意味でも明日の審議は注目されるところである。

前掲のリンク先の記事でも論じたように、この加算は事業者・事業経営者の立場からすれば、その配分に悩ましい問題があって、すべての職員に納得・満足される配分方法は存在しないような厄介さがある。

例えば、加算対象職員には加算金額をすべて手渡し、その他の職員には事業収益の中から、加算対象職員と同等の給与改善ができれば、それが一番公平な方法であるが、とてもではないがそれほど体力と余裕のある事業主体は少ないだろう。

そのため来年10月の加算支給に向けて、事業経営者は周囲の介護事業者の状況を見ながら、配分割合などを考えなければならないわけで、この方針を間違えると、職員が大量に退職してしまうことにもなりかねないので慎重の上にも、慎重な決定にならざるを得ない。

だからと言って厄介な問題を生じさせないように、この加算を算定しないなんて言う乱暴な決断はできない。そういう事業者に介護福祉士がとどまるわけがないからである。

この加算は来年の時点で経験が10年以上あり、リーダー格となる介護福祉士が支給対象となるが、それ以後は、随時経験年数がそれに達した介護福祉士が対象となっていくのだろう。そういう意味では、今は経験年数が満たないけれど、介護業界で介護福祉士を続けておれば、やがてその支給対象になるという将来の希望と目途にもつながるもので、業界全体の介護福祉士と、その資格を目指す人材が増えるという効果は期待できるだろう。

一方で、こうした処遇改善が図られるのは、介護保険制度と障害者福祉制度のみとされており、医療機関の介護福祉士にこうした恩恵は一切ない。

そうであれば今現在医療機関で看護助手として働いている介護福祉士も、介護施設等へ転職しようと考えるかもしれない。ただし新処遇改善加算の対象になる経験年数は、「業界10年」であり、これは介護業界という意味だと思えるから、医療機関での経験は認められないと考えられる。そのため介護業界での経験がない介護福祉士は、転職した後に10年先まで加算対象となるのを待たねばならないというハードルがあるので、それらの人が医療機関から大量に介護事業者に転職することは考えにくい。

よって過去に介護業界で10年経験があり、今現在医療機関で看護助手をしている介護福祉士が、介護業界に復帰しようとする動きがあるだけにとどまるのかもしれない。

しかし確実に言えることは、今後、介護福祉士の資格を取得した新卒者が、医療機関で働く動機付けは著しく削がれることになるということだ。医療機関と介護事業者における介護福祉士の初任給が同等であっても、介護事業者に就職した場合には、10年先には確実に処遇改善加算対象になり、大幅な給与アップが図られる見込みがあるとなると、最初から介護事業者で働いておく方が将来に不安はないと考える人が多くなるだろう。

勿論、この加算が10年先まで続くかどうかは不透明で、社会情勢自体がどうなるかもわからないという考えはあるが、今現在敷かれてるレール上のことを考えると、医療機関で介護業務に携わるという選択肢は、ほとんどメリットを見いだせなくなるのではないだろうか。

ということで医療機関の介護職員人材の確保は、今以上に難しくなると思えるが、看護職が足りておれば、それは問題ないと考える医療関係者が多いのだろうか・・・。

医療関係者は、このことをどう考えているのだろう。こうした状況に危機意識はもっていないのだろうか。このことに関して問題視する声が医療関係者から聞こえてこないのはなぜなんだろう。

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Source: masaの介護福祉情報裏板