介護労働の底辺化を進める愚策に協力する愚かな関係者

3月19日に行われた全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議の資料のうち、総務課資料の32頁には、「介護人材のすそ野を広げる取り組み」の事例として、三重県の老人保健施設で、地域の元気な高齢者を、「介護助手」として導入する取り組みが行われていることを紹介している。

ベッドメイキングや食事の配膳などを行う「介護助手」を10施設が取り入れ、47名がパート職として継続雇用されている状況について、現場の介護職員からは、「これまで以上に業務に集中できる」・「時間的余裕ができる」・「利用者の満足度が上がった」という声が挙がっていることも紹介されている。

この資料のこの部分を読む限り、配膳やベッドメイキングができる高齢者を、「介護助手」として雇用できれば、現場は大いに助かるという印象が持たれるだろう。

しかしこれは本当に現場の声を代表している意見なのだろうか?

僕が特養の総合施設長を務めていた経験で言えば、日中短時間しか働けないパート職員をいくら増やしたところで、常勤の介護職員からはあまり歓迎されなかった。特定の時間帯にいくら職員を手厚くしても業務軽減にはならないので、そんな人を増やすのではなく、私たちと同じ勤務体制でシフトできる人を一人でも多くしてくださいと言われた。ましてや一部の特定の仕事しかできない人は、なおさら「いらない」と言われた。

介護業務とは、単純作業と技術が必要な作業が複雑につながっているもので、それを単純化して切り分けるのは、利用者の暮らしを分断させて、暮らしの質の低下につながりかねなくなる問題であるという問題もそこには存在していた。そのことは、「施設業務の切り分けを考えるお寒い頭脳」でも指摘しているところである。

それなのに三重県の老健では、ボランティアとあまり変わらないような、ごく一部の行為しかできない高齢労働者を歓迎する声が多い。それは何故だろう?

そう考えると、この資料に載せさられている職員の声とは、一部の肯定的な意見を拾って取り上げているだけではないのかという疑いがでてくる。しかもそれらの肯定的な声は、必ずしも多数派の意見ではないのではないかという疑いも捨てきれない。

国が施設業務を切り分けて、「介護助手」の導入を進めるという方針に沿った都合の良い声だけを載せている、「印象操作」ではないかと思えるのである。

何しろ資料を作っているのが、不正統計・統計操作がお上手な厚労省なのである。そういう疑いがもたれて当然だし、僕の過去の施設長経験のみならず、今現在の現場の介護職員の声を聴いても、この資料の肯定的な意見は、決して納得できるものではないのである。

そもそもこのように業務を切り分けて、一部の業務を現役を引退した高齢者に手渡すことを広げた先には、何があるかを考えてほしい。介護助手の業務内容を考えると、その仕事に手厚い対価は支払われないことは確実だ。それは最低賃金と同額にしかならないだろう。しかしそうであっても現役を引退した後の、老後のアルバイトとしては問題ないとでもいうのだろうか?介護助手として雇用される人は、現役を引退した高齢者に限らない。そこには数は多くはならないとはいえ、単純作業しかできない・したくないという若年労働者も含まれてくるだろう。

そしてこの方法が一般化する先には、配置規準に「介護助手」も含めてよいという基準改正が待っている。

3:1の基準を改正しないまま、介護助手を含めた配置規準とすることで、介護給付費の単価を下げようとする考え方があるということを理解しなければならない。しかしそれは介護の職業のうち、介護助手という単純作業に特化して就労する人々を大量に生み出して、それらの人々の暮らしを底辺化させるものだ。つまり介護助手の導入促進は、介護労働の低賃金化を促進する結果とならざるを得ないのである。

いうなれば介護助手とは、生活援助に特化してホームヘルプサービスを提供できる資格者の仕事と同じように、ワーキングプアに直結する新たな仕事と言ってよく、そのような業種に支えられる介護労働としてよいのかという問題が根底にあるということだ。

介護助手のモデル事業に参加している三重県の老健関係者は、そのことを理解して、この事業に協力しているのだろうか。介護労働の底辺化を懸念したうえで、なおかつ介護助手を肯定的にみる現場の意見を挙げているのだろうか。

三重県の老健の経営者や管理者は、この問題が将来的には自らの首を絞める結果につながっていくことをわかっているのだろうか。

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Source: masaの介護福祉情報裏板