誤嚥死亡事故?で特養の准看護師に有罪判決の問題点

長野県の特別養護老人ホームで、2013年12月12日に入所利用者である85歳の女性が死亡した件について、業務上過失致死罪に問われた准看護師に有罪判決が出され、罰金刑が言い渡されたことが昨日夕方から報道されている。

中日新聞のネット配信ニュースを以下に示す。
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長野県安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」で2013年、ドーナツを食べた直後に意識を失い、その後死亡した利用者の女性=当時(85)=への注意義務を怠ったとして、業務上過失致死罪に問われた准看護師山口けさえ被告(58)の判決公判が25日あり、長野地裁松本支部は求刑通り罰金20万円を言い渡した。

弁護団は「過失が認められれば介護の現場は萎縮し、利用者の生活の質を保てなくなる」と主張。全国の介護関係者らから無罪を求める署名が約45万筆集まるなど、注目を集めていた。

判決理由で野沢晃一裁判長は、女性は歯が無かったことから「ドーナツを細かくできず窒息の可能性がある」と死因の低酸素脳症などの原因に窒息があると認定。咽頭に残っていたドーナツ片は小さすぎるなどとして窒息はなかったとする弁護側の主張を退けた。

事故の数日前から女性のおやつはゼリーに変更されており、野沢裁判長は、提供するおやつを確認する義務を怠ったと認定。おやつの変更を介護士から知らされておらず、介護士の申し送り事項を確認する勤務形態でなかったと、あずみの里職員が証言したが、この職員が無罪を求める集会に参加したことを理由に「信用できない」と断じた。

一方、女性に異変が生じた時、山口被告は他の利用者の食事介助中で、女性に気を配るのは困難だったとし、見守りを怠った過失は認めなかった。

判決後、木嶋日出夫弁護団長(72)は「実現不可能な義務を課しており、現場を知らない判決」と批判。弁護側は即日控訴した。

判決によると、2013年12月12日、あずみの里の食堂で女性におやつのドーナツを配膳して窒息させ、約1カ月後の2014年1月16日に低酸素脳症などで死亡させた。
女性の死亡を巡り、あずみの里は損害賠償金を支払う形で遺族と示談している。
(中日新聞)2019年3月25日 22時42分ネット配信記事
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今朝の北海道新聞朝刊でも、このニュースは3面記事で紹介されているが、その報道内容は中日新聞ほど詳しくはなく、特養で過去に死亡した女性について、裁判所は誤嚥による窒息死であることを認定し、そのこ責任が准看護師にあるとして有罪判決を出したが、弁護側は控訴審で争う姿勢を示したと報道している。

この報道は事実である。間違っているところは何もない。同時にこの報道は新聞記事の限界と言え、決して真実を現してはいないことを申し添えておく。この裁判の争点はもっとほかのところにもあるのである。

死亡した女性は、義歯が無く食べるペースが速いことがあったので、介護職員が女性に箸を使用させたり食べ物を小分けにしたりして、食事のペースを調整していた人だったそうである。「誤嚥」の恐れがあったわけではないものの、死亡の6日前におやつの形態が固形食からゼリー系のものに変更されていた。検察は冒頭陳述で、准看護師がおやつの形態変更を知らなかったことをとがめている。

しかし施設内で、おやつをのどに詰まらせて窒息死した事案で、施設の管理責任が問われるのではなく、准看護師個人の業務上の過失責任が問われ、それが認められてしまったということには違和感を覚えざるを得ないし、このようなことで罪に問われては、誤嚥の恐れのある人に普通の形態での食事提供が過度に制限される恐れがあるし、そもそも経口摂取の維持継続という目標が、早すぎる段階でその旗を降ろさねばならなくなるという恐れもある。

しかしこの裁判の争点は、そのこととは別に存在するようだ。そもそもこのケースは喉を詰まらせたことによる死亡事故ではなかったと弁護側は主張している。その主張内容とは、女性の突然の意識喪失と心肺停止が、ドーナツの誤嚥や窒息によるものではなく、食事中の突然の脳疾患・心疾患と見るのが医学的に合理的であるというもので、鑑定書も作成し証拠申請しているのである。

それらの経緯については全日本民医連のサイトに詳しく紹介されているので、下記参照いただきたい。
緊急連載 特養あずみの里裁判(1) 介護の未来かけ たたかう 木嶋日出夫弁護団長 どんなできごとが刑事裁判にかけられたのか?」・「緊急連載 特養あずみの里裁判(2) 介護の未来かけ たたかう 木嶋日出夫弁護団長 ずさんな警察・検察の捜査・起訴のねらいは?」・「緊急連載 特養あずみの里裁判(3) 介護の未来かけ たたかう 木嶋日出夫弁護団長 刑事裁判はどうすすんでいるのか?」・「緊急連載 特養あずみの里裁判(4) 介護の未来かけ たたかう 木嶋日出夫弁護団長 介護の未来がかかった裁判での勝利のために

これを読むと今回の有罪判決については、全く容認・納得できるものではないように思える。今後の控訴審で、この判決が覆ることを期待している。

どちらにしても介護関係者にとっては、他人事ではないと言える裁判ではないだろうか。控訴審の判決はまだ先だが、裁判の進行具合にも注目してく必要があると思う。

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Source: masaの介護福祉情報裏板