上司の寛容心が改革を頓挫させる

介護事業者に勤務する従業員が、対人援助のプロとして、いつでもどこでもマナーをもって接することができるように訓練する必要があるという意味は、すでに職業倫理を超えて、事業戦略としても必要になってきていると言ってよい。

なぜなら高齢者介護サービスの利用者の中心層も、今後は「団塊の世代」の方々に移行していくからだ。それらの方々は日本の高度成長期を支えた企業戦士やその妻であり、そしてそれらの方々を商売の相手としていた人々なのだ。顧客サービスとは何かということが身に染みているそれらの世代の方々は、顧客に対して、目上の人に対して、「タメ口」で接することを許すような寛容心を持っていない。

そうであるからこそ介護サービスという目に見えないサービスを売りものとしている、介護サービス事業者の職員が、その顧客である利用者に、マナーのない態度で接することを許してくれないから、そういう事業者は選ばれないことになる。

そんな中で日本の社会情勢と経済状況も変化してくる。一人の高齢者に掛けられる社会保障費は半減されると言っても、介護給付費自体は2018年と比較すると2028年には、10兆円から20兆円に増えるわけである。介護給付費だけで10年間で10兆円増えるとすれば、その周辺費用を含めると、そこには100兆円を超えるお金が転がっているということになる。景気の減退に入った感がある我が国で、来年にはオリンピックも終わり、さらなる景気減退が予測される。そんな中で介護市場に回されるお金は魅力的である。

だから民間営利企業で、現在介護サービスに参入していない企業の中で、新たに介護事業に参入する企業は必然的に増えることになる。このことは必然の結果で、外れる可能性のない予測と言える。しかし一人の高齢者に配分される介護給付費は、現在より低額化が図られていくのだから、収益を上げるためには顧客数を一人でも多く確保せねばならない。

その時、顧客としても最大数の塊となる団塊の世代の方に選択されるサービスとは、顧客を顧客とみて、きちんとサービスマネーを持った対応ができる事業者であり、マナーの上に「ホスピタリティ」の精神を持った従業員を数多く雇用できる事業者が、事業経営上の勝ち組になっていくのは目に見えている。

だからこれからの介護サービス事業経営の命運を握るものが、職員のサービスマナー意識であり、コミュニケーション技術は特に重要となってくるものであり、日常的にごく自然に利用者に対して、丁寧語を使いこなして会話できる従業員教育は非常に重要になる。すべての従業員が8大接客用語を使いこなせるように教育しなければ、介護事業経営はままならなくなる。

しかし組織風土は、あっという間に悪化するが、よくなっていくのには時間がかかる。時間をかけてサービスマナーを浸透させるためには、経営者や管理者には例外を認めないという覚悟が求められる。例外を認めた職場で良い方向に改善できた職場は存在しない。

例外なく言葉遣いを正すことができない職員を排除していった職場では、汚い言葉遣いにストレスを感じていた職員が輝きだし、今では20歳代の職員も、「利用者にとの会話を丁寧語で行うなんて当たり前で、それ以外は考えられない」と普通に言っている。

そういう職場にせねばならない。なぜならサービスマネーを浸透させるということには、もう一つの重要な意味があるからだ。

横柄な態度、無礼な言葉遣いは、しばしば人権侵害につながる問題を引き起こしている。「そんなつもりはなかった」という言い訳は、人の心を傷つけ、人の心を殺してしまったあとでは、なんの言い訳にも免罪符にもならない。そういうことがないように、相手から誤解されない対応の基盤となるのが、「サービスマナー」であり「介護サービスの割れ窓理論」で示している、言葉遣いに注意することの意味なのだ。

団塊の世代の人々は、介護サービスの従業員が顧客に対し「タメ口」で接することを許すような寛容心を持っていないと書いたが、そうであるがゆえに、自分が心身の障害を持った時、心身の状態が低下したときに、誰かの手助けを必要としなければならなくなったことで、年下の従業員から、「タメ口」で話しかけられることに、誰よりもショックを受け、誰よりもそのことに哀しむのだということを知るべきである。

人の哀しみに思いを寄せられない人は、対人援助を生業(なりわい)としてはならないのである。

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Source: masaの介護福祉情報裏板