特定処遇改善加算の基本的考え方(その2)

先週土曜日に書いた「特定処遇改善加算の基本的考え方とQ&A等について」という記事の中で、「もし疑問が残っているという方は、表の掲示板に質問スレッドを立てていただきたい。」と書いたところ、いくつかの質問をいただいているので、そのことに関連して今一度、この加算の算定ルールを確認しておきたい。

この加算は事業者の判断で支給対象を、a経験・技能のある介護職員だけではなく、bその他の介護職員、cその他の職種という3つのグループに分けて支給できる。(※勿論、aだけの支給、aとbだけの支給という判断もありだ。)

そしてaの「経験・技能のある介護職員」については、「介護福祉士の資格を有するとともに、所属する法人等における勤続年数10年以上の介護福祉士を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえ、各事業所の裁量で設定すること。」とされ、Q&Aの問4で、「10年以上の勤続年数を有しない者であっても業務や技能等を勘案して対象とするなど各事業所の裁量により柔軟に設定可能である。」としている。

この裁量に関連して、Q&Aの問5で、「経験・技能のある介護職員」に該当するグループを設定しない場合は、その理由を届け出て、月額8万以上もしくは年額440万以上の要件をクリアする職員がいなくても良いとされていることから、実際に10年以上の経験のある職員がいても、aグループを設定せずに、bとcだけをグループ設定し、「その他の職種の平均賃金額が、その他の介護職員の平均賃金額を上回らない場合は、bの給与改善見込み額の平均が、cの給与改善見込み額の平均の2倍以上とする必要はない」というルールを適用し、すべての職員に均等に加算を支給することは可能かという質問があった。

しかし僕はそれは不可だろうと回答した。なぜなら事業所に認められている裁量権とは、経験の中に加算算定事業者での勤務経験以外の他法人での経験を認めたり、経験年数が10年に達していなくとも、業務上の責任ある地位とか、特別な技能を広く認めてaグループに入れてよいということであり、実際に10年働いている職員をaグループとせず、bグループとすることまでは認めていないと思えるからだ。

そのことは今回発出された資料の3頁において、bについては、「他の介護職員」としているのみで、ここに実際に経験ある職員を事業所の裁量で含めてよいという注釈はなく、あくまで裁量を認めるという注釈が書かれているのは、aグループのみであるということが「法令根拠」となるのだと思う。

問5の規定は、あくまで問1の「勤続10年以上の介護福祉士がいない場合であっても取得できる。」を受けてのものだと思う。

ただし各グループの個別の支給額については差をつけてよいので、介護職員間の賃金改善額にできるだけ差をつけたくない場合には、次のような方法が考えられる。(※わかりやすいように金額と人数は少なめに設定した事例を示す)

例えば特定処遇改善加算を30万円算定した事業所の場合、a経験・技能のある職員が4人で、bその他の介護職員が5名いたとする。そしてその事業所では、cその他の職種については、この加算による給与改善は行わず、加算をaとbだけに支給し、その中でできるだけ介護職員間の差をつけたくないと考えたとする。

この場合、年間給与が440万円の職員が現におらず、改善後も440万円に達する職員がいないとした場合、必ず一人以上の職員に対しては月額8万円の給与改善が必要となる。

そうなるとa経験・技能のある職員の4人のうち、主任を月額8万円給与改善し、副主任を月額6万円給与改善したとする。すると残りの16万円を、aの残り2人とbの5人で均等割りすると22.857円(小数点以下切り捨て)となるため、この7人については月額2万3千円給与改善したとする

この場合aグループの平均給与改善額は46.500円となり、bグループの平均給与改善額は23.000円となる。これによってaグループの平均賃金改善額が、bの平均賃金改善額の2倍以上であることという要件もクリアできるので、この方法はありだ。

ところで「その他の介護職員の賃金改善見込み額の平均が、その他の職種の賃金改善見込み額の平均の2倍以上であること。ただしその他の職種の平均賃金額が、その他の介護職員の平均賃金額を上回らない場合は、この限りではない。」という部分の「ただし」以降の要件は、実際にはあり得ないと思う。

なぜならQ&A問13では「平均給与額の計算に当たっては、計算式の母集団に給与改善を行わない職員も含める」とされており、「その他の介護職員」は、経験10年以下の介護福祉士もしくは介護福祉士の資格を持たない介護職員全員が対象となる。だとしたらこのグループの平均賃金額は、aグループより低いことは確実である。

そしてcグループとは、今回の加算で給与改善をする・しないに関わらず、介護職員以外のすべての職種が含まれることになり、給与が高いであろうと思われる看護職員も含まれるし、法人役員ではない場合の施設長も含まれるし、そのほか事務長も事務員も介護支援専門員も相談員も管理栄養士も、すべて含まれてくる。その平均賃金額がbグループを上回らないなんてことはあまり想定できない。あるとすればよほど小規模な事業者で、管理者の賃金も高くなくて、看護職の配置義務がなくて、その他の職種に調理員や清掃員などを含む場合ではないだろうか・・・。

それと日本語を理解できていない人が、法令分を間違って解釈している例もみられる。

特定処遇改善加算の算定要件として、「経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善に要する費用の見込み額が月平均8万円(賃金改善実施期間における平均とする。以下同じ)以上又は賃金改善後の賃金の見込み額が年額440万円以上であること(現に賃金が年額440万円以上の者がいる場合にはこの限りではない)」という規定がある。

このことについて「現に賃金が年額440万円以上の者がいる場合は、適用外、対象外と解釈しました。 」として、年収440万円以上の者がいる事業所は加算算定できないと思っている人がいた。

これは大きな誤解である。確かに「この限りではない」という意味は、「適用外である」という意味である。しかしこの限りではないという言葉には、必ず前段となる文章があり、その文章の内容の適用外であるという意味である。例えば「AはBである。ただしCの場合にはこの限りでない」と記載されている場合には「AはBである。ただしCの場合には例外とする」と言った意味となる。

つまり上記の算定要件の意味は、年間賃金が440万円の者が現にいる場合は、この加算によって新たに月額8万円以上もしくは年収440万円以上となる者がいなくても算定可能という意味にしかならない。まあこれは小学生レベルの誤解なので、普通の人にとっては解説も指摘も必要としない内容である。

それにしても疑問というのは次から次へと限りなく出てくるものだとつくづく思わされた。その疑問の中には、考えすぎ、煮詰まりすぎの疑問が無きにしも非ずである。もっと落ち着いて、ゆっくりと通知文を読み込めばわかりそうなものであると思ってしまう。

だがこの加算の配分によって、職員間の人間関係が微妙に変化したり、退職者が出たりしないとも限らないことを考えると、考えすぎるのも仕方ないのかと思いなおした。

どちらにしても介護事業経営者は、この加算の支給方法について、「我が職場にとって最善の方法とは何か」ということについて、思い悩む日がしばらく続くのだと思う。正解のない答えを求めなければならないが、是非職場全体で話し合う機会を持って決断につなげてほしいと思う。

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Source: masaの介護福祉情報裏板