人材から選ばれる事業者という意識

全国各地、どこへ行っても介護事業者の人材が充足しているという地域はない。

多くの事業者で人材確保に悩みと不安を持っているのが現状だ。しかしそのことに具体的に対策をしていない事業者も多い。介護事業者がなくなっては困るのだから、国が何とかするだろうと甘えた考え方を持っている事業経営者もいる。

しかしこのブログのカテゴリー「介護人材確保」で何度も指摘しているように、日本の人口構造と、外国人労働者の特性を鑑みたときに、国の背策によって介護人材が充足することはあり得ず、人材確保ができずに事業経営が続けられなくなる事業者は相当数出てくるだろうという予測は、決して外れない予測と言ってよい。

しかし人材不足が叫ばれる現在であっても、しっかり人材を確保し、職員が充足しているという事業者もある。そこでは他事業者との差別化を図り、求職者にそのことが認められて選ばれ、そうした人材が定着しているという意味である。

つまり介護人材確保という面で言えば、既に勝ち組と負け組の差が付き始めているということだ。

ではその差別化とは何だろう。勿論そこには給与やキャリアパスを含めた待遇面の差という要素も含まれてくる。そしてその差は事業規模によって開きが出てくるために、大規模事業者の方が有利となるという側面がある。しかし大規模事業者の中でも、人材確保に苦労しているところと、そうではないところがあるという差が生じていることを考えると、待遇面以外の差というものが確実に存在するはずだ。

そもそも介護給付費を主な運営費としている以上、サービス種別と事業規模が同じであれば、給与という部分で大きな差はつかないはずなのに、事業種別と事業規模別に細かく人材確保の状況を見ていくと、そこでも差が生じていることが明らかになってくる。この差は何だろう。

ちょっと角度を変えて、若い人で介護の職業に就こうとしている人の視点から、このことを考えてみたい。

高校生が介護の仕事を進路として希望すると、担任から職員室に呼び出され、「そのような将来性のない仕事に就いてはならない。考え直しなさい。」と指導する学校がまだ全国にたくさんある。そんな中で、なおかつ介護の職業を目指そうとする高校生には、高い動機づけがある。それだけを考えても、高校卒の新人は「金の卵」であり、「宝」だと言ってよい。

そんな中で介護福祉を専門に学ぶコースを設けている高校もある。その数も減りつつあるのだが、そうしたコースにのある高校を選んで進学する学生もいるのである。そうした学生は明確に、介護の職業に就きたいという動機づけを持った人たちである。

その動機付けを得た理由が、祖父母の介護経験であったり、介護施設を訪ねて見聞きした経験であったり様々ではあるが、介護の職業にある種の「憧れ」を持って、希望を胸にして進路を定めているのである。

そういう人たちは、介護の知識や技術を学び取ろうと熱心に勉強している。若く経験がない中でも、懸命に介護とは何たるかを学び取ろうとして勉強しているのだ。その知識や技術は拙いとしても、その人たちが貴重な人材であることは間違いない。そういう人たちが介護職員の募集に応募してくれる事業者とならねば、金の卵を獲得できないのである。

しかしその金の卵たちは、漠然と募集を待っているわけではない。職業安定所の募集内容だけを見て、応募するかどうかを決めるわけではないのである。

介護福祉コースで学ぶ学生にインタビューを行ってわかることは、彼ら・彼女らは、職員募集に応募する前に、ほとんど現地を訪ねているという事実が浮かび上がる。職員を募集している職場で、実際にどういう人が働いていて、どういうふうに利用者対応をしているのかをしっかり見定めたうえで、「あんなふうに介護ができるなら、そこで働きたい」と応募先を決めているのだ。

だから多くの学生が、複数の介護事業者を訪問見学している。その時に訪問先の職員の利用者への対応が、「なんとなくぞんざいな感じがする」・「乱暴に利用者に対応している職員がいる」という評価を学生が下していることを、当の介護事業者の職員は意識しているのだろうか?

少なくとも「接遇」を学んでいる学生は、顧客である利用者に、日常的に「タメ口」で接する職員のいる事業者を、入職したい事業者であるとは希望しないのである。

実習という場面でも同じである。実習先がそのまま就職希望先になる場合と、絶対に就職したくない場所に分かれてくる理由は、前者はマナーの優れた職員が多い事業者であり、後者はマナーに欠けている事業者であることが多い。

現在の介護職を目指す学生は、介護という職業に理想を持っているのだ。介護という仕事が「人に役立つ職業である」ことを信じて介護職を目指しているので、人に役立たないサービスの実態が見える事業者には就職したくないと思うのだ。

東京の高校で介護福祉を学んで、去年の春に特養に就職した19歳の女性は、その施設を選んだ理由を、「見学したときに、職員さんの言葉遣いが一番丁寧だったから」と言った。その若者を「宝」と公言している施設長さんのいる特養で、彼女は今も活躍している。

そんな風に将来「人財」となり得る「人材」は、事業者から選ばれる前に、事業者を選択しているのである。単なる人員を集めて、将来そうした職員が、「人罪」となってしまうような事業者に、そういう人材は集まらないわけである。

だから良い人材を集めて、定着率が高く、サービスの質が高い事業者にはさらに良い人材が集まる。逆に人員確保に汲々として、いつも職員を募集し、職員教育もほとんど行われずにサービスの質も低いような事業者は、人材から振り向きもされず、ずっと人手不足は解消されないことになる。

後者のような負のスパイラルに陥らないためには、サービスマナー教育と徹底するとともに、教育の手の及ばない職員は排除するという強い考えが必要である。そして一時的な人員不足を耐え忍んで、誰でもよいから採用する体質から抜け出し、人材から選ばれ、人材を採用して教育し、高品質なサービスを提供できる事業者へ脱皮することが求められる。

そうしないと事業経営ができない時代になってきているのである。

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Source: masaの介護福祉情報裏板