人生の最終ステージを支える責任

現在全国の特養の8割以上が、「看取り介護加算」の算定届を出している。

つまり特養の8割以上が、「看取り介護」を実施できる施設であるということになる。・・・しかしその実態は、本当に終末期支援としてふさわしい支援行為となっているだろうか。

看取り介護加算を算定できているということは、その算定要件をクリアしているのだから、法令上の看取り介護を実施していないということにはならない。しかし法令で定められた要件をクリアしていたとしても、即ちそれが安らかな終末期支援を意味しているとは限らないのである。

看取り介護を行う際に一番大切なことは、看取り介護対象者が、「安心して安楽に過ごすことができる」ということだ。特に病気が原因となっている「痛み」に苦しまないように、痛みをコントロールすることは一番大事である。もしそれができないのであれば、痛みのコントロールが可能なホスピス等に、対象者を転院するなどの支援を行うことが最重要な支援となり、決して無理して看取り介護を行なおうとしてはならない。なぜならそれは看取り介護対象者を、人生の最終ステージという大切な場所で、苦しめるだけの結果しか生まないからだ。

このように看取り介護が何たるかという理解がないままで、終末期の人をそこで看取ればよいというだけの知識で、痛みを無視して、看取り介護対象者の苦痛を見逃すなんてことがあってはならない。

そういう意味では、安楽な体位の支援を常に行ったり、体位交換も適切に行って皮膚障害による痛みが出ないようにすることも大事である。そして看取り介護対象者が死への恐怖におびえることがないように、安らかな気持ちで過ごすことができる精神的支援などをすべて含んだ総合的支援が行われなければならない。このことを看取り介護に携わるすべての関係者が理解しておく必要がある。

看取り介護とは日常支援の延長線上にある終末期の介護であり、それは決して特別な介護ではなく、看取り介護ができない特養というものが存在してはならない。しかし同時に、前述したような終末期支援の際に重要になることは何かという知識は当然求められるのであるから、すべての特養経営者は、職員にその知識を身に着けさせるように教育を行う必要は当然あるということだ。

終末期特有の身体症状としてはチェーンストークス呼吸や、デスラッセルという症状も起こり得るし、下顎呼吸は必ず起こる自然現象なので、その状態になった時に慌てないように、あらかじめそれらの知識を持っていることも不可欠となる。(※拙著、「看取りを支える介護実践~命と向き合う現場から」には、それらの説明も詳しく書いているので参照願いたい。)

これらの知識は日ごろから、「看取り介護研修」をきちんと行って、職員全員に周知すべき知識だ。看護職員や介護職員だけではなく、相談員や事務職を含めたすべての職員が、そうした知識を持っていないと、間違った形で看取り介護が行われてしまう。

間違った形で看取り介護が行われた結果、加算算定ができなくなる程度の問題ならば、それはさほどの問題とは言えない。それは職員に知識を与えないまま、そうした大事な介護を行わせていた経営者の自己責任に過ぎないからである。

しかし間違った形で看取り介護が行われた結果は、加算算定の問題にとどまらず、看取り介護対象者の人生の最終ステージに、取り返しのつかない後悔を与える結果にななることが多い。そうなっては困るのだ。そのような状態には決して陥らないという覚悟が求められる。

拙著でも指摘しているように、看取り介護を行う前提条件は、医師の医学的見地によって、きちんと終末期判定が行われ、余命診断が行われるということだ。しかしそうした当たり前の知識に欠ける特養では、終末期判定があいまいに行われ、場合によっては経管栄養となった人をすべて看取り介護対象としているなんていう信じられない状態が起こってるのだ。

その状態はあまりにも無責任である。それは人の命に深くかかわる看取り介護において、真摯な姿勢のかけらも見つけられない状態と言える。そうした状態を放置しておく人が、対人援助を行う事業の経営者であってはならないのである。

だからこそ看取り介護に携わるすべての関係者の皆さんに訴えたい。

看取り介護とは単に加算を算定するためだけの行為ではないのです。それは誰かの人生の最終ステージに関わるという行為なのです。その場面で関わる人と、看取り介護対象者の関係性によって、誰かの人生の幸福度が変わってくるかもしれないのです。人としてこの世に生まれてよかったと思いながら旅立っていくことができるかどうかは、看取り介護という場面で、そこに携わる人々がどう関わっていくかで左右されてしまうかもしれないのです。

だからこそ、命を尊く思ってください。儚い命を大切に思ってください。その命が燃え尽きる瞬間まで、命を愛おしく思ってください。

※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。

masaの最新刊看取りを支える介護実践~命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。
TSUTAYAのサイトからは、お店受け取りで送料無料で購入できます。
キャラアニのサイトからも送料無料になります。
医学書専門メテオMBCからも送料無料で取り寄せ可能です。
アマゾンでも送料無料で取り寄せができるようになりました。

Source: masaの介護福祉情報裏板