着たきり雀を作り出す介護をやめよう

人が生きる意欲を持つうえで、整容介助がいかに重要であるかについて、「思いに気づく、おもいやり」という記事の中で考え方を示した。

僕が総合施設長を務めていた特養では、モーニングケアの際のみならず、ベッドから離床介助を行う際は、目やにをとったり、寝癖がついた髪の毛を直すのは当たり前という意識を持つように徹底的に教育を行い、整容介助は最低限必要な日常介護であるという意識を浸透させた。

その延長線上には入浴支援を終えた際に、髪の毛を乾かさないまま、タオルで水分を取るだけで終わることがないように、きちんとドライヤーをかけて整髪するという意識も生まれた。それは極めて当たり前の介護行為になった。

その結果、寝癖をいつも直せるように霧吹きスプレーやブラシ等は、介護職員の手の届くところに常に置かれていた。そういう意識のない場所では、ちょっとした寝癖を直す、「道具」さえないところが多い。道具がないということは、知恵がないと同じ意味だと考えてほしい。

こうして整容が人が生きるうえで大事なことだと考えることによって、「着替え」は重要な支援行為であることにあらためて気づかされた。常にTPOに合わせて着替えるお手伝いをするなんてことは不可能だが、せめて日中着と夜着は区別して、しっかり着替え介助を行うということは徹底されていた。

だが着替えさえ行っておれば良いということにはならない。例えば夜着への着替えは、当然寝るときに行うべき支援行為だが、着替えさえしておればよいという意識でしかなくなると、この着替えが夕食前に行われて、利用者は寝間着姿で食堂に出されて夕食を摂らねばならなくなる。家族だけの場所ならそれでも良いだろうが、他人がたくさん集まる特養の食堂に、寝間着のまま連れていかれる恥ずかしさや、屈辱を考えてみろと言いたくなる。それは求められる介護ではない。

モーニングケアの一環として夜着から日中着に着替え、日常生活の場ではきちんと日中着で過ごすことができ、夜寝るときは夜着に着替えて心身ともにリラックスして安眠できる支援が求められているのである。

しかし全国たくさんの介護施設、GH、特定施設等の居住系施設において、利用者の着替えがきちんと行われていない実態がある。スエット上下で1日中過ごして、夜着への着替えさえ行われていないところもある。(※僕が1年だけ勤めた千歳市の老健もそうだった。そこでは入所契約の際に、「○○さんお負担にならないように、夜もそのまま眠れるようにスエット上下を持ってきてください。」なんて馬鹿げたアナウンスがされていた。負担軽減というが、それは利用者のためにはなっておらず、自分たちの仕事のためではないかという声は無視された。

昼夜の意識の切り替えのためにも、着衣を清潔に保つためにも、着替えは重要な介護である。着たきり雀の介護はやめよう。着替えをはじめとした整容介助ができていないから、誰かに逢いに出かけようという気持ちにもなれない利用者はたくさんいるのだ。自分に置き換えて、何日も昼夜を通して同じ服装で過ごしてよいかと考えてほしいものである。

そうした問題提起に対しては、必ず反論が声高々に挙げられる。「人が少ないんだから、そんな時間に、そんなこと全員にやっていられない。」という声である。前述した千歳市の老健施設もそうだった。

しかし僕は自分が管理していた施設で実践してきたことをやろうと主張しているに過ぎない。やれないことではなく、現にやってきたこと、今もやっていることでしかないのである。それに対するできない論は何の説得力もない。

人手が足りないから、そんな頻繁な着替えの介助はできないという。

人手が足りないから、利用者の身だしなみまで気を遣うことはできないという。

人手が足りないから、入浴支援は週2回が精いっぱいだという。

そんなことを言っている場所からは、今に、人手が足りないから、1日3回も食事介助なんてできないと言い出す輩が出てくるんじゃないか。今に、人手が足りないから、トイレでの排せつ支援はできないから、全員おむつにして1日3回しかおむつ交換しないようにしましょうと言い出す輩が出てくるんじゃないか。

全く馬鹿げている。

そもそも時間と人が足りないという人たちは、モーニングケアやイブニングケアを、あまりにも限定した時間の中で行うべきだと勘違いしているのではないのか。夕食が終わったら寝る時間ではないのだ。介護施設で夕食が終わる時間はたいてい夜7時頃だろう。それから夜の時間を過ごす時間帯は人によって異なって良いのだ。ある人は9時に寝て、ある人は10時に寝るわけだから、その間に一人一人の寝る時間に合わせて着替え介助を行なえばよいわけである。着替え介助の時間帯は2時間とか、3時間の範囲で見ることができるわけである。朝だって目覚める時間は個人によって様々なのだから同様に考えられる。そもそも利用者全員が着替えの介助を要するわけでもあるまい。

シフトを工夫してモーニングケアやイブニングケアに人手をかけることもできる。早出や遅出とは、そのためのシフトである。早出が朝食介助の時間から勤務がスタートする必要ななく、それより早い時間から勤務しても良いし、遅出は夕食が終わる時間を終業時間とする必要はなく、夕食が終わりイブニングケアが終わる時間までを勤務としても良いわけである。

知恵を使わないから工夫が生まれないのだ。知恵を使って工夫すれば、新たな方法論が生まれる。その時必要となる道具をそろえたり、システムを変更したりすることは、事業者全体で取り組むべき問題で、全員が知恵を絞ることで解決できる問題は多々あるわけだ。事務員もこの部分では門外漢ではないので、ケアの実態を事務員という別な立場で見て意見を言える職場環境を造っていくように管理職は努めるべきである。そして必要なケアにお金をかけることはあっても良いわけである。

この部分を高い木の上から見て、全体を指揮するのが施設長や管理者の務めである。

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Source: masaの介護福祉情報裏板