損保ジャパンの介護事業への配転計画の裏を読む

損害保険会社大手の「損保ジャパン日本興亜ホールディングス」といえば、「ワタミの介護」や「メッセージ」を買収し、介護事業部門においても大手と言ってよい企業である。

同社が、西日本で最大の介護事業者だったメッセージを買収したきっかけは、「Sアミーユ川崎幸町事件」であったと記憶している。

3階のベランダから利用者3人を投げ殺したとされ、1審で死刑判決を受け控訴中の今井被告事件のほか、複数の介護職員が利用者に罵声を浴びせ、乱暴に利用者をベッドに放り投げているなどの隠し撮り映像がユーチューブにアップされ、その後の調査で全国の有料老人ホーム「アミーユ」で同じような虐待行為が発覚したことで、親会社である「メッセージ」が介護事業経営を続けることが不可能となり、損保ジャパン日本興亜に事業譲渡した経緯について鮮明に記憶している関係者は多いことだろう。

ところで月曜日の夜にネット配信されたニュースでは、損害保険ジャパン日本興亜が、ITを活用することで業務の効率化を進め、2020年度末までに従業員数を17年度比で4000人程度減らす方針であることが報道されている。それは同社の全体の約15%に相当する数ということであるが、希望退職者の募集は行わず、余った従業員は介護などを手掛けるグループ企業に配置転換し、新卒採用も抑えるとしている。

要するに本業の合理化で余った従業員を、後発事業として抱え込んだ人手の足りない介護事業に配転するというものだ。

これによって同社は、本業の生産性がアップし、さらに生産性の低いと言われる介護事業に、本業で鍛え上げた人材を貼りつけることで、そちらの生産性も向上させるとともに、介護事業の人材不足も一気に解決し、介護業界のトップランナーとして走り続ける条件を備えるということになるだろうか。

そして一つの企業だけで、新たに4000人もの介護人材を生み出すことが、介護業界全体の人材不足を少しでも補う効果につながるのだろうか。

しかしそうは問屋が卸さないだろう。

配転される人たちは、介護の仕事に就くことを望んでいるわけではあるまい。そして介護の仕事に対する興味も知識もあるわけでもあるまい。損害保険を扱う業務をしていた人が、いきなり介護の業務に臨んでも、事務作業くらいしかできる仕事はないかもしれない。しかしは配転先の介護事業者が求めているのは事務作業を行う人ではなく、介護業務を行う人材である。

そうであれば企業グループ内の配転だからと言って、「ああそうですか」とすんなり配転に従うとは限らない。配転を拒んで辞めてしまう人もいるだろう。

望まぬ形で配転された人も、時とともに介護業務に慣れて、そこで新たな人材として張り付くなんて言う期待はできない。覚悟を決めて配転に従ったとしても、いざ介護の仕事に就いてみると、やはり自分の適性ではないと気が付いて、短期間で辞めていくのが落ちではないだろうか。

しかし大手企業がそんなことを理解できないわけではないだろう。ということはこの配転の方針には裏があるということではないのか。

つまり合理化=首切りというイメージは、企業にとってマイナスにしかならないために、そう思われないように、世間に対しては希望退職も募集せずに、内部の移動だけで合理化を進めるという印象操作を行って、その実態とは、余剰人員をまったく畑の違う異業種へ配転させることで、相当数の職員が自分の望まない仕事に嫌気が差して、辞めていくことを見越したものではないのかとうがった見方をしてしまう。

このような形で介護事業者に配転させられる人が、すべて介護事業者の戦略となるわけがない。その一部の人達には介護の仕事の適性がなく、あらたな職場で何かをしでかす恐れだってないとは言えない。適正も希望も鑑みない配転は、「介護うつ」の予備軍を大量に作り出すかもしれない。

配転から1年後に、その人たちが何人介護業界に残っているのか、3年後には何人になっているのかを調べることは、こうした配転の効果と実情を考えるうえで、興味深い統計データになるのではないだろうか。しかしその数字は、決して表には出ることはないのだろうと想像する。

どちらにしても、余剰人員として無理やり専門外の業界に配転させられる人々には、お気の毒としか言いようがない。無理をして精神と身体を病まないようにしていただきたい。

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Source: masaの介護福祉情報裏板